【サンプル】創作BL小説アンソロ『春風』寄稿本文サンプル【活動報告】

活動報告です!!

『夏雲』『冬息』に続き、シナリオライターによる創作BL小説アンソロジー『春風』に参加させていただきました!

トロ川様(おさしみ大帝国様)からの頒布になります。

【頒布情報】
頒布開始:4/28(日)
頒布場所:ゲームマーケット春【日 O63】
※通販もあります!
詳細はこちら

私は春の小川をテーマにした『見ていた』という短編を寄稿しています。

伊吹という会社員と、真坂という川で溺れていた男の話です。一応伊吹が攻めです(特にそれを示唆するシーンはない)。

今回はいつもやってる「キスすればBLやろ」シーンがなく、とってもエモ&ポエジー♡

どっちも20代後半~30代くらいの小綺麗な男だし、心の交流をメインにしているからトレンドの掴みもバッチグーなんだ♡

というわけで本文サンプルを以下に掲載します。一人3000~7000字程度の短編小説集なのでサンプルも短いですが、ご参考までに。

『見ていた』本文サンプル

伊吹いぶきは河川敷に立って春掛川はるかけかわを覗き込んでいた。この街は年明け後もしばらく寒く、川に氷が張る。そして桜前線の話題がニュースに出るようになってようやく、水面の薄氷がひび割れ、ぽつぽつと穴が開くようになる。今、伊吹が見ているものもまさしくそれであった。ひび割れからときおり川の水があふれ、曇りガラスのような氷の上を濡らす。雪解け水のせいで水量が増えているのだろう。波打つたびに下の水が表面の薄氷を追い越して広がり、日差しを反射してきらめき、そうしてまた氷が解けて水かさが増すのだ。

その冬と春の融点の下から、手が伸びた。
氷の内側から手のひらで押すように、二、三度叩かれる。

「あっ…!」
伊吹は息を飲んでそれを見ていたが、やがて頭が追い付いて慌てて氷を割った。人が溺れているのだ。刺すように冷たい川に手を突っ込み、手の主を探す。浮いた氷が曇っているせいで全貌は見えないが、水面に近い手だけは見えた。男だろう。伊吹は全身を使って引っ張り上げた。ざぶりと水と共に引き上げられたそれは、咳き込みながらも案外自力で身を起こした。
「ありがとうございます。はぁ、驚いた」
やはり、男だった。三十代前半くらいに見える。服装はカーキ色のコートにジーパンで、人相は無精ひげとずぶぬれの黒髪のせいで野暮ったく見えた。
「あの…、救急車呼びましょうか」
「いえ、そこまでじゃありませんよ」
しかし男が居たのは氷の張った川の底だ。伊吹は男のそばに屈んで襟から覗く白い首をまじまじと見た。冷えて白いのだろうが、真っ青ほどまではいかないし、確かに大事ではなさそうだった。
「お名前は?」
男は伊吹に問いかけながら、水浸しの懐からふやけた煙草を取り出した。当然のように吸おうとするので伊吹は自分の煙草を差し出した。
男は軽く礼を言って受け取った。
「教えてくれませんか?」
「あ…、伊吹です」
「イブキさんね。ありがとうございます。見つけてくれなかったら僕ぁ一生あそこにいたでしょうな」
「いえ、あの…どうして…溺れていたんですか」
いや溺れてたわけじゃないんですよと男は笑った。へえ、と伊吹は上ずった声を出した。この男はあの下にいたのだ。伊吹は横目で氷の張った川を見る。伊吹が見つけるまで何秒、何分いたのかわからない。自分だったら3秒浸かっただけで音をあげるだろう。いや、並みの人間だったら皆そうだ──伊吹は表面上の仕草とは裏腹に、後頭部のあたりで焦燥感が車輪のように回っている心地がした。
だがそれが疑問として口から出ることはなかった。伊吹はハンカチを取り出して男に渡していた。
「ああ、いずれ乾くからそんなのいいのに」
「乾かしている間に…もっと具合が悪くなるかも」

なんとなく、死ぬという言葉を避けた。

「じゃあ、もらっておきます。重ね重ねありがとうございます。イブキさん」
「はい、あの、あなたは?」
「ああ、僕ですか。僕は、たしか真坂まさかです。真坂春樹まさかはるき
「たしか…?」
「すいませんねえ。なんだか記憶が曖昧なんです」
「あ、ああ」
この状態で意識がはっきりしているわけがなかった。伊吹はわたわたと自分のコートをはたいたが使えそうなものが出てくるわけもなく、行動は尻切れトンボに終わった。真坂はそれを見ておかしそうに笑った。
「お気遣いなく。僕ぁここで服を乾かしますんでね。どうか構わずお帰りください」
「そうですか…」

伊吹は男に促され、ほとんど茫然自失のまま帰路についた。自宅に人の気配はなく、大きなコーヒーのシミがついたソファにコートを投げ、しばらくそのままでいた。やがてのろのろとリビングと地続きの台所に移動して溜まった皿を二枚ほど洗い、ピタリと止まり、弾かれたようにコートを着なおした。バッグにバスタオルやらシャツやらを詰めて家を飛び出す。

河川敷まで全速力で駆け戻れば、びしょ濡れの真坂が芝生に座って煙草をふかしていた。

—サンプルここまで—

参加した感想や単発公開の予定など

参加させていただくたびに「夏は暑い!」「冬は雪!」という超単純な発想で書いていますが、今回も例に漏れずわかりやすく春感を出しているので、春っぽさはあると思います(最低保証)。

『夏雲』に寄稿した「蠅」ほどじゃないですが若干臭いのが玉に瑕です。

単発公開は過去作などをまとめて個人誌として出したいな~と思っています。今年か来年あたりに…。取り急ぎすぐ読みたい方は『春風』を手に入れていただければ幸いです!

▼『夏雲』寄稿サンプル

【サンプル】創作BL小説アンソロ『夏雲』寄稿本文サンプル【活動報告】
創作BL小説アンソロジー『夏雲』に寄稿した『蠅』のサンプルです。甥×叔父です。

▼『冬息』寄稿サンプル

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創作BL小説アンソロジー『冬息』に寄稿した『冬暁のギリー・ドゥー』のサンプルです。冴えない男×よくわかんないデカい男のBLです。
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